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結論:働くなら「月64,506円まで」か「思い切って80%超」の二択
育休中に少し働くと、育児休業給付金(育休手当)はどうなるのか——先に結論から書きます。手当をもらいながら働く限り、その月の「手当+賃金」の額面は396,960円(ざっくり40万円)で頭打ちになります。しかも減額が始まるゾーンでは、賃金が増えた分だけ手当がぴったり同じだけ減るため、働いても総額はほぼ動きません。
だから、迷ったときにすすめたいのは次のどちらかです。
- 「月64,506円以内」に収める:手当は満額のまま、賃金がまるごと上乗せになる唯一のゾーン。仕事から完全に離れたくない人、引き継ぎやスポット対応だけしたい人はここ。
- 賃金が396,960円を超えるまで働く:手当は捨てる前提で、賃金で稼ぐ。早く戻りたい人・役職や案件の都合で中途半端に離れられない人はこちら。
いちばん避けたいのが、その中間(月64,506円〜396,960円)です。 ここは働いても額面の合計が増えず、それどころか非課税の手当が課税される賃金に置き換わるぶん、手取りではむしろ目減りしやすい。「せっかくだから少しずつ働こう」がいちばん報われにくい、というのがこの制度の意地悪なところです。
この記事では、その金額の根拠(2026年8月1日改定の公的な数値)と計算方法、日数のルール、そして手当以外に効いてくる社会保険料や次の子の給付への影響まで、順番に整理します。
産休・育休そのものの全体像(期間・出産手当金・手続き)は産休・育休の制度とお金まるごと解説にまとめています。
先に用語を2つだけ:「賃金月額」と「支給単位期間」
計算の話に入る前に、この記事で何度も出てくる言葉を説明しておきます。どちらもハローワークの書類に出てくる言い方で、ここを取り違えると計算が丸ごとズレます。
- 休業開始時賃金月額(この記事では「賃金月額M」):育休に入る前6か月の賃金を180で割った「賃金日額」に、30日をかけた額。ざっくり言えば育休前の月給(額面・残業や手当込み、賞与は除く)に近い金額です。手当はこのMをもとに計算します。
- 支給単位期間:手当を計算する1か月の単位。カレンダーの1日〜末日ではなく、育休を始めた日から1か月ごとです。5月10日に育休を始めたなら、1つ目の期間は5月10日〜6月9日。後で出てくる「就業10日以下」の判定も、この区切りで数えます。
「今月は3日しか働いていないから大丈夫」とカレンダーで数えて、実は期間をまたいで6日になっていた——という取り違えは、ここが原因で起きます。
押さえるべき上限は2つある
上限1:手当のもとになる「賃金月額」に天井がある
育児休業給付金は「賃金月額M × 給付率」で計算します。給付率は育休開始から180日目までが67%、181日目以降は50%です。
ここで大事なのが、計算のもとになる賃金月額Mそのものに上限があること。上限は496,200円(賃金日額の上限16,540円×30日)です。この額は毎年8月1日に改定され、2026年8月1日から483,300円→496,200円に引き上げられました。
その結果、どれだけ高収入でも、まったく働かない場合の手当は67%の期間で月332,454円が上限です。50%の期間なら248,100円。月給が80万円でも100万円でも、この額で頭打ちになります。「高所得だから手当も比例して多い」わけではない——まずここを押さえてください。
2026年8月1日からの主な上限額(出典:厚生労働省「令和8年8月1日から支給限度額が変更になります」)
| 給付の種類 | 上限額(2026年8月1日〜) | 改定前 |
|---|---|---|
| 育児休業給付金(67%の期間) | 332,454円 | 323,811円 |
| 育児休業給付金(50%の期間) | 248,100円 | 241,650円 |
| 出生時育児休業給付金(産後パパ育休) | 310,290円 | 302,223円 |
| 出生後休業支援給付金(13%の上乗せ) | 60,205円 | 58,640円 |
| 休業開始時の賃金月額 | 上限496,200円/下限96,090円 | 上限483,300円 |
| 育児時短就業給付金 | 支給限度額484,121円 | 471,393円 |
上限2:働ける日数・時間にも天井がある
手当をもらいながら働く場合、原則は1つの支給単位期間の就業を「10日以下」に収めること。ただし10日を超えても、就業時間が80時間以下なら支給されます。つまり手当が止まるのは、日数が10日を超え、かつ時間も80時間を超えたときだけ。この場合その期間の手当は全額支給されません(減額ではなくゼロです)。
たとえば時給2,000円で1日3時間ずつ11日働いた場合は、日数は超えていても33時間なので支給対象。同じ11日でも1日8時間なら88時間となり、両方を超えるので手当はゼロ——同じ「11日」でも結果がまったく違います。
賃金が出ると手当はこう減る
育休中に働いて賃金(W)を受け取ると、Wの大きさに応じて手当が減額されます。基準は上で出てきた賃金月額M(上限496,200円)です。以下は67%の期間の場合です。
- W ≦ M×13%(=64,506円):減額なし。手当は満額(賃金月額が上限の人なら332,454円)
- M×13% < W < M×80%(=396,960円):手当=M×80% − W(差額だけ支給)
- W ≧ M×80%(=396,960円):手当はゼロ
181日目以降の50%の期間は、上の「13%」を「30%(148,860円)」に読み替えます。
ここで注目したいのが、減額の判定に使う賃金Wは「実際に支払われた賃金=実額」だということ。賃金月額Mのように上限で抑えられません。高所得の人は日当や時給が高いぶん、少し働いただけでWが13%や80%の線に届いてしまう——これが「高所得ほど働き損になりやすい」理由です。
なお、この「賃金」とは育休を取っている会社から、育休期間を対象として支払われたものを指します。賞与は別扱いです。
13%と80%の線に「段差」はない
誤解されやすいのですが、13%や80%の線をまたいだ瞬間に手当がガクンと落ちるわけではありません。賃金月額が上限の人で確かめると、13%ちょうど(64,506円)のときの減額後の手当は「396,960−64,506=332,454円」で、満額とぴったり同じ。80%の線も同様に、手前で手当がほぼゼロになるので連続的につながります。
金額の線はなめらか。本当の“崖”は、就業10日・80時間を両方超えたときの全額ゼロだけです。金額の計算より先に、まず日数と時間を管理してください。
具体例:賃金月額が上限の人が1日4万円で働くと
賃金月額Mが上限の496,200円になる人が、67%の期間に働いた場合です(就業1日あたりの実賃金を4万円、1日8時間と仮定)。
| その期間の就業 | 実賃金W | 判定 | 育児休業給付金 | 額面合計(手当+賃金) |
|---|---|---|---|---|
| 0日 | 0円 | 13%以下 | 332,454円 | 332,454円 |
| 1日(8時間) | 40,000円 | 13%以下 | 332,454円 | 372,454円 |
| 2日(16時間) | 80,000円 | 減額 | 316,960円 | 396,960円 |
| 5日(40時間) | 200,000円 | 減額 | 196,960円 | 396,960円 |
| 10日(80時間) | 400,000円 | 80%以上 | 0円 | 400,000円 |
| 11日(88時間) | 440,000円 | 80%以上(日数・時間も超過) | 0円 | 440,000円 |
2日働いても5日働いても、額面の合計は同じ396,960円——ここが最大のポイントです。減額ゾーンでは〔賃金W〕+〔手当396,960−W〕=常に396,960円で一定になります。
額面が同じでも、手取りは同じではない
もう一段細かい話をします。育児休業給付金は非課税で、社会保険料もかかりません。一方、働いて受け取る賃金は課税対象で、所得税や雇用保険料が引かれます。
つまり減額ゾーンで働くと、額面の合計は396,960円のまま変わらないのに、中身が「非課税の手当」から「課税される賃金」へ入れ替わっていくわけです。その年の年収次第では最終的な所得税がゼロになることもありますが、賃金が増えれば翌年度の住民税にも響きます。額面が動かないなら、手取りはむしろ減る方向に働きやすい、と考えておくのが安全です。
「少しだけ働く」ゾーン(W ≦ 64,506円)だけは、この入れ替えが起きず賃金がまるごと上乗せになります。冒頭で二択のひとつに挙げた理由がここにあります。
こんな人はこうする:タイプ別の早見
| こんな人 | 現実的な選び方 | 理由 |
|---|---|---|
| 会議やメール対応だけ残したい | 賃金を月64,506円以内に収める | 手当は満額のまま。唯一の純増ゾーン |
| 引き継ぎ・繁忙期の助っ人で数日入る | 日数と時間を先に決めてから金額を逆算 | 金額より先に10日・80時間の崖を回避 |
| もう戻りたい・案件を持ち続けたい | 育休を終えて復職、または賃金80%超まで働く | 中間ゾーンは総額が増えない |
| 時短で戻りたい | 育児時短就業給付金を検討 | 賃金の10%が別途支給される(後述) |
| 副業・他社の仕事がある | 日数のカウントに要注意 | 賃金は減額対象外でも、日数・時間は合算される |
| 育休が月の途中で終わる | 社会保険料免除の条件を先に確認 | 就業日は「14日以上」のカウントから外れる |
| 産後パパ育休(出生時育児休業)中 | 別ルール。労使協定と個別合意が必要 | 就業できるのは所定労働日・時間の半分まで |
やりがちな失敗5つ
1. カレンダーの月で日数を数えてしまう
前述のとおり、判定は育休開始日から1か月ごとの支給単位期間です。月末月初をまたいで働くと、自分の感覚より日数が積み上がっていることがあります。働く前に「この期間は何月何日から何月何日まで」と紙に書き出しておくのが確実です。
2. 副業先・アルバイト先の稼働を数え忘れる
厚生労働省のリーフレットには、雇用保険の被保険者になっていない事業所で就業した日数・時間も、10日・80時間の算定に含まれると明記されています。一方で、減額の対象になる賃金には、その事業所から支払われた分は含まれません。
つまり副業は「賃金は手当を減らさないのに、日数だけは食う」という非対称な扱いです。ここを取り違えると、気づかないうちに全額不支給の線を越えかねません。
3. 次の子の給付が減る可能性を見落とす
同じリーフレットの注意書きに、1か月に10日を超えて就労した場合、その賃金が次の子の育児休業給付金の計算に使われることがあり、次の子の給付額が減る可能性があると書かれています。
育休前の高い給与ではなく、育休中の少ない賃金が計算のもとに混ざるためです。第2子・第3子を考えている人にとっては、目先の数万円より影響が大きくなることもあります。心当たりがあれば、働く前にハローワークで確認しておきたい点です。
4. 社会保険料の免除条件を落とす
育休中の社会保険料(健康保険・厚生年金)の免除は、その月の末日に育休を取得しているか、同じ月に14日以上の育休を取得していることが条件です(日本年金機構)。そしてこの14日のカウントから、就業した日は除かれます。
月末をまたぐ長い育休なら末日の条件で満たせますが、月の途中で終わる短い育休で働きすぎると、14日に届かず免除を落とすことがあります。免除される保険料は高所得の人ほど大きいので、手当の数万円より影響が大きいケースもあります。なお賞与の保険料免除は「賞与月の末日を含む1か月超の育休」が条件で、給与とは別判定です。
5. 「ちょっとだけの対応」を申告しない
就業した日数・時間は支給申請書で申告し、タイムカードなどの証明書類を求められます。自己判断で「これは仕事のうちに入らない」と省くのは避けてください。
そもそも育休中の就業は、会社と合意した一時的・臨時的なものが前提です。恒常的に働いていると育休そのものの前提が崩れかねません。働き方を決めるときは、必ず勤務先の担当部署に相談を。
「育休中に働く」以外の選択肢
働いて手当が削られるより、制度を切り替えたほうが有利なこともあります。
- 育児時短就業給付金:2歳未満の子を育てるために時短勤務をして賃金が下がったとき、各月の賃金の10%が支給されます(2025年4月開始)。支給限度額は2026年8月から484,121円で、賃金がこれ以上の月は支給されません。時短前の賃金の90%超〜100%未満に戻る場合は支給率が調整されます。時短後の週の所定労働時間が20時間を下回ると雇用保険の対象から外れ、給付も受けられなくなる点に注意。
- 出生後休業支援給付金:父は子の出生後8週間以内、母は産後休業のあと8週間以内に、両親がそれぞれ通算14日以上の育休を取ると、最大28日間、13%が上乗せされます(2025年4月開始・上限60,205円)。育児休業給付金の67%と合わせて80%となり、社会保険料免除と非課税を考えると手取りの10割相当になる、と説明されている制度です。この14日のカウントからも就業した日は除かれるとされていますので、「少し働く」判断が上乗せを取りこぼす原因になることがあります。取得を予定しているなら、日数の数え方を先に勤務先へ確認してください。
- 柔軟な働き方の措置:2025年10月から、3歳から小学校就学前の子を育てる従業員に対し、始業時刻の変更・テレワーク・短時間勤務などから会社が複数の選択肢を用意することが義務づけられました。育休中に無理に働くより、復帰後の働き方を交渉するほうが現実的な場合もあります。
児童手当や医療費助成など、手当以外に使えるお金の制度は育児で使えるお金の制度まとめにまとめています。
お金の時間軸:いつからいつまで、いつ振り込まれる
- 給付率が変わるのは181日目から:育休開始から180日目までが67%、以降は50%。「そろそろ減る」タイミングは日付で把握しておくと計画が立てやすくなります。
- 手当がもらえるのは原則1歳まで:保育所に入れないなどの事情があれば1歳6か月、さらに2歳まで延長できます。延長には申込内容の確認があるため、必要書類は早めに確認を。
- 振込は2か月ごと:申請も原則2か月に1回で、初回の入金は育休開始から3か月ほど先になるのが一般的です。働くかどうかの判断より先に、手当が入らない最初の数か月をどう乗り切るかを決めておくほうが実際には効きます。
- 住民税は前年の所得で来る:育児休業給付金は非課税ですが、住民税は前年の所得に対して課税されます。育休前の高い年収をもとにした住民税が、収入が減った育休中に届くことになります。給与天引きができない期間は自分で納付する形になることが多いので、金額と納付方法を勤務先に確認しておくと安心です。
- ふるさと納税の枠は下がる:控除の上限はその年の所得で決まります。育休で年収が下がる年に前年と同じ感覚で寄付すると、自己負担になる部分が出ます。
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よくある質問
Q. 高所得だと手当も多くもらえますか?
A. いいえ。計算のもとになる賃金月額に上限(496,200円)があるため、67%の期間の手当は月332,454円が上限です。50%の期間は248,100円。月給がいくら高くても、この額で頭打ちになります。
Q. 育休中に少し働くと、その分まるまる収入が増えますか?
A. 賃金が13%(64,506円)以下ならまるまる増えます。それを超えると手当が減り、減額ゾーンでは賃金が増えた分だけ手当が減るため、額面の合計は396,960円で一定です。手当は非課税、賃金は課税なので、手取りではむしろ目減りしやすくなります。
Q. 損せずに働ける範囲はどのくらいですか?
A. その期間の賃金が64,506円以下なら手当は満額のまま。ただし日数10日・時間80時間の両方を超えないことが前提です。金額は毎年8月に改定されるので、その年の額で確認してください。
Q. 10日を1日でも超えたら手当はゼロですか?
A. いいえ。10日を超えても就業時間が80時間以下なら支給されます。ゼロになるのは日数・時間の両方を超えたときだけです。
Q. 副業やアルバイトの分はどう扱われますか?
A. 雇用保険に入っていない事業所での就業でも、日数・時間は10日・80時間のカウントに含まれます。一方、そこから支払われた賃金は減額の計算には含まれません。日数だけが積み上がる形になるので、特に注意が必要です。
Q. 産後パパ育休(出生時育児休業)中も同じルールですか?
A. 考え方は似ていますが、就業できる条件が違います。産後パパ育休中に働くには労使協定と本人の個別合意が必要で、就業できるのは休業期間中の所定労働日数・所定労働時間の半分まで。給付金の減額の考え方(13%・80%)は同じです。
Q. 50%の期間(181日目以降)はどうなりますか?
A. 「13%」の部分が「30%(148,860円)」に変わります。80%以上の賃金で不支給になる点と、減額ゾーンで合計が頭打ちになる仕組みは同じです。
確認しておきたいこと
- 金額は毎年8月1日に改定されます。 本記事の496,200円・332,454円などは2026年8月1日改定の現行値です。最新額はハローワークで確認してください。
- 具体例の「1日4万円」は説明用の仮定です。 実際の賃金は会社の支払い方(日割り・時給など)で決まります。
- 支給日数が30日でない期間があります。 育休の終了日を含む期間は日数が変わり、金額もそれに応じて変わります。
- 条件は人によって異なります。 雇用保険の加入期間、会社の規定、他社での就労状況によって結論が変わることがあります。働く前に、必ず勤務先の担当部署とハローワークに相談してください。
まとめ
育児休業給付金には、手当そのものの上限(67%の期間で月332,454円)と、就業10日・80時間という日数の壁の2つの天井があります。そして働いて賃金を受け取ると、13%を超えたところから賃金と手当が1対1で相殺され、手当をもらう限り、その期間の額面合計は396,960円で頭打ちになります。
だから中間ゾーンで中途半端に働くのは、額面が増えないうえ、非課税の手当が課税される賃金に置き換わる分だけ不利になりやすい。働くなら月64,506円以内に収めるか、いっそ手当を諦めて稼ぐか——先に決めてしまうほうがすっきりします。
そして手当の数万円より、社会保険料の免除条件や、次の子の給付額への影響のほうが金額として大きくなることもあります。目先の1か月だけでなく、育休全体と次の妊娠まで見渡したうえで、勤務先とハローワークに確認して決めてください。
参考:厚生労働省「令和8年8月1日から支給限度額が変更になります」、厚生労働省・ハローワーク「育児休業期間中に就業した場合の育児休業給付金の支給について」、日本年金機構「育児休業等期間中の社会保険料免除要件」
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