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この記事の結論
子どもの偏食は、その子の性格やわがままだけで決まっているわけではありません。日本の親子429組を調べた研究で、偏食といちばん強く結びついていたのは、家庭の食卓で楽しく会話をしながら食べているかどうかでした。次に強かったのは、ごはんを作る大人自身に好き嫌いがあるかどうかです。
一方で、よく心配される「発達がゆっくりだから」「食物アレルギーがあるから」といった要素は、この研究では偏食との関連が見られませんでした。
つまり、変えられる余地があるのは、子どもの口ではなく食卓の空気のほうかもしれない——これがこの研究のいちばん実用的な読みどころです。ただし1回きりの調査なので、「会話を増やせば偏食が必ず直る」という因果関係まで証明されたわけではありません。その線引きも含めて、正直に整理します。
いまの困りごと別、まず試すこと
| いまの状況 | まず試すこと |
|---|---|
| 野菜を一口も食べない | 食卓に出すのは続けつつ、食べさせようとする声かけを一度やめてみる |
| 食事中に立ち歩く、手遊びが多い | テレビを消し、大人も一緒に座って同じものを食べる |
| 「食べなさい」と言い続けて疲れた | 圧をかけるほど好き嫌いが強まる報告があります。量ではなく雰囲気を優先する |
| 自分(作る人)にも苦手な食材がある | 苦手でも食卓には並べる。「ママは苦手だけど」と言わずに出す |
| 日によって食べる量がバラバラ | 「食べむら」も偏食と同じまとまりで扱われます。1日単位ではなく1週間で見る |
そもそも「偏食」とは何を指すのか
偏食には、じつは統一された定義がありません。今回の研究では「食べ物の好き嫌いが激しいために、特定の食品に偏った食生活を送ること」と定めたうえで、質問への答え方が似ているものをまとめる統計の手法で、実際の家庭の回答から「偏食」というまとまりを取り出しています。
そのまとまりに入ったのは、次の5つでした。
- 自分の好きな食べ物だけ好んで食べる
- 嫌いな味付けのものをほとんど食べない
- 食べ物の好き嫌いがある
- 食事よりおやつを食べる傾向がある
- 食べる量が日によって変わる、食べむらがある
注目したいのは、「食べむら」が偏食と同じまとまりに入ったことです。一般には別ものとして扱われがちですが、家庭で感じている困りごととしては地続きだった、ということになります。「昨日は食べたのに今日は食べない」も、好き嫌いと同じ土俵で考えていい、と考えると少し気が楽になります。
なお、食事の困りごとは特別なことではありません。厚生労働省の乳幼児栄養調査では、2歳〜3歳未満で「偏食する」を挙げた保護者は32.1%、3歳〜4歳未満でも30.6%。2〜3歳でいちばん多い困りごとは「遊び食べをする」で41.8%でした。5歳以上でも「困りごとは特にない」と答えた人は22.5%しかおらず、約8割の家庭が何かしら食事で困っています。
研究でわかったこと——熊本の親子429組を調べた調査
この研究は、尚絅大学の當房浩一さん(現在は信州大学)らの研究チームによるものです(當房ほか, 2024, 栄養学雑誌)。
熊本県内の保育施設15施設と区役所2施設を通じて、幼児のいる1,314世帯に無記名の質問紙を配り、854世帯から回答を得ました。回答漏れのないデータに絞った結果、1歳7か月以上の子どもと、その家庭で主にごはんを作る人のペア429組が分析対象です。作る人の内訳は母親403人、祖母17人、父親9人。子どもの平均年齢は4.2歳でした。
わかったことは、大きく3つです。
1. いちばん強く関係していたのは「食卓での楽しい会話」
研究チームは、家庭の食習慣の質問から「食生活コミュニケーション」というまとまりを取り出しました。中身は次のようなものです。
- 楽しく会話をしながら食べている
- 作る人が一人で食べることが多い(これに当てはまるほどコミュニケーションは低い側になります)
- 食事のとき挨拶をする習慣がある
- よく噛んで食べるよう言っている
このまとまりと偏食のつながりの強さは、マイナス0.39でした。この数字は関係の強さを表す目安で、0なら無関係、絶対値が1に近いほど強く、マイナスは「片方が高いともう片方が低い」という向きを意味します。今回調べられた要素のなかで、この0.39がもっとも大きい値です。
つまり、食卓での会話が豊かな家庭ほど、子どもの偏食は少ない傾向にありました。
2. 作る人自身の好き嫌いが、そのまま子どもに乗っていた
ごはんを作る人に好き嫌いがあるかどうかは、他の要素とは独立して、直接的に子どもの偏食と結びついていました(0.20)。
研究チームはその理由を、大人が嫌いな食材は、そもそも食卓に登場しないからだと説明しています。食べる機会がなければ、子どもは「食べず嫌い」のまま大きくなります。海外でも、母親が嫌う食べ物は子どもに出されにくく、母子の好みが似ることが報告されており、それを裏づける結果でした。
もうひとつ、作る人の「食への関心の低さ」も偏食と結びついていました(0.18)。こちらは「食事を面倒くさがる」「味付けご飯か白米しか食べない」「食事よりおやつを食べる」といった項目のまとまりです。
3. 偏食の子は、食事中に手遊びをしたりテレビを見たりしやすい
偏食は、食事中の手遊び(0.23)とテレビを見ながら食べること(0.21)を予測する要因でもありました。年齢で分けると、4歳になる前は「テレビを見ながら食べる」、4歳以降は「食事中の手遊び」との結びつきが目立ちました(前半187人、後半242人に分けての分析です)。
ここで研究チームは、ひとつ丁寧な検証をしています。「テレビを見ながら食べるから偏食になる」という逆向きの関係も考えられるので、その向きでも計算し直したのです。結果は、偏食→テレビは統計的に意味のある関係だったのに対し、テレビ→偏食のほうは意味のある関係にならなかった。少なくともこのデータでは、食への関心の低さが先にあって、食事中に別のものへ注意が向く、という順序のほうが説明として自然だ、ということになります。
あわせて知っておきたい「関係がなかったこと」
心配されがちなのに、偏食とのつながりが見られなかったものもあります。ここは安心材料として大事なところです。
- 首すわりや歩き始め、言葉が遅かったこと(発達のゆっくりさ)
- 食物アレルギーがあること
- 子どもの好奇心の強さ
- 毎日排便があるかどうか
- 子どもの性別、身長・体重、家族の人数、作る人の年齢
一方で、「こだわりが強い」子は偏食が強い傾向があり(0.14)、この「こだわりの強さ」自体も食卓の会話の少なさと結びついていました(マイナス0.17)。ただしこれは性格の傾向を指す質問項目であって、何かの診断を意味するものではありません。
「食べなさい」と言うほど逆効果になりうる
もう1本、参考になる研究があります。中国・石家荘市で生後6〜35か月の子どもをもつ養育者409人を調べた2025年の報告です(Wen ら, 2025, Appetite)。
こちらでは、子どものサインに応じる、大人が食べて見せる、食事中に積極的に話しかけるといった関わりが、子どもの「食べることを楽しむ」気持ちの強さと正の関係にありました。とくに「積極的な会話とやりとり」がもっとも大きな値です。
反対に、「食べなさい」と食べることを促す関わりは、食べる楽しみとは負の関係で、好き嫌いの強さ・食べるのが遅いこととは正の関係にありました。
日本と中国、対象年齢も違う2つの調査が、「食卓のやりとりの質が、子どもの食べ方と結びついている」という同じ方向を指しているのは、心強い一致です。
家庭でできること
どちらの研究も「これをやれば直る」と証明したものではありませんが、費用も道具もかからず、試して害のないことを、わかったことに沿って挙げます。
1. 大人も同じものを、同じ食卓で食べる
作る人が立ったまま別のものを食べたり、あとで一人で済ませたりするのは、今回の研究では偏食と結びつく側の項目でした。全員そろわなくても構いません。一口でも同じものを、向かい合って食べるだけで条件は変わります。
2. 食べさせるための会話ではなく、楽しい会話をする
「あと3口」「野菜も食べて」は、食事のための会話であって楽しい会話ではありません。保育園の話、明日の予定、味の感想。話題が食べ物である必要すらありません。「いただきます」「ごちそうさま」の挨拶も、コミュニケーションの項目に含まれていました。
3. 大人の苦手な食材も、食卓には出す
作る人の好き嫌いは、そのまま子どもの偏食と直接つながっていました。全部食べなくて構いません。苦手でも並べておく。「ママはこれ嫌いなんだよね」と言わずに出す。それだけで、子どもの「食べる機会」は増えます。
4. 食事中はテレビを消す
偏食の子ほど、食事中にテレビを見たり手遊びをしたりしやすい傾向がありました。テレビが原因だと断定はできませんが、画面を消すと大人の側が会話に戻れるという意味で、いちばん実行しやすい一手です。
5. 「食べなさい」の圧を、いったん減らす
促すほど好き嫌いや食べる遅さと結びついていた、という報告があります。食べた量ではなく、食卓にいた時間を評価するくらいに基準を下げてみてください。1食の量は、1週間単位で帳尻が合えば十分です。
6. 買い物や調理に参加してもらう
研究チームは、家庭で食への関心を持つことと、食卓の団らんのなかで食について伝えることを、支援の具体策として挙げています。スーパーで野菜を選ばせる、皮をむいてもらう、混ぜてもらう。自分が関わったものは、食卓に出たときの見え方が変わります。
3歳ごろからは、子ども用の安全包丁で手伝ってもらうのも一つの方法です。刃がギザ刃になっていて指が切れにくく、まな板とセットになったものが扱いやすくなっています。
キッチンに一緒に立つには、高さを合わせる踏み台があると安全です。洗面所の手洗いにも使えるので、無駄になりにくい道具です。楽天市場では保育士監修をうたう木製2段タイプが人気で、価格帯は3,000円台〜、レビューが500件を超えるものもあります。
7. こだわりが強い時期は、形と組み合わせを変えてみる
こだわりの強さは偏食と結びついていました。裏を返せば、中身ではなく「形・切り方・器・並べ方」がひっかかっていることがあります。同じ食材を、細かく刻む/大きく切る/別の器に分ける、と変えて試してみてください。自分でつかめる大きさに切る工夫は、手づかみ食べのコツにまとめています。
知っておきたい注意点と、研究の限界
ここは正直に書きます。この研究だけで「会話を増やせば偏食が直る」とは言えません。
- 1回きりの調査です。 ある時点の状態をまとめて調べたもので、時間の前後を追っていません。研究チーム自身が最初の限界として挙げており、「今後、時間の順序を確かめる調査が必要」と述べています。会話が少ないから偏食になるのか、偏食で食卓が苦しくなって会話が減るのか、この調査では決められません。
- 熊本県という一地域の調査です。 さらに、質問項目が多かったため回答漏れが多く、最終的に分析できたのは配布1,314世帯のうち429組(有効回答率39.0%)。食に関心の高い家庭に偏った可能性があると論文自身が認めています。
- 「はい・いいえ」の2択で聞いています。 程度の差が拾えないため、実際より関係が小さく見えている可能性があります。
- 調査は2018年、対象の子どもの平均年齢は4.2歳です。 1歳7か月以上が対象なので、離乳食期の赤ちゃんにそのまま当てはめることはできません。離乳食の進め方は離乳食の進め方の目安、幼児食への切り替えは幼児食はいつからを参考にしてください。
- 兄弟姉妹が同じ家庭から回答に含まれています。 食卓の環境が同じ子どもが混ざるため、解釈には注意が必要です。
そして何より、この結果を「食卓の会話が少ない親のせい」と読まないでください。ワンオペで、時間もなく、まず食べさせることに必死な家庭は珍しくありません。この研究が示しているのは責任の所在ではなく、打つ手の場所です。
受診・相談の目安
次のような場合は、偏食として家庭で工夫する前に、かかりつけの小児科や自治体の栄養相談・保健センターに相談してください。
- 体重が増えない、または減っている。身長の伸びが止まっている
- 食べられるものが両手で数えられるほど少なく、その範囲がさらに狭まっている
- 食べ物を口に入れると吐く、飲み込めずに出すことが続く
- 牛乳や卵など特定の食品で口の周りが赤くなる、じんましんが出る(食物アレルギーの可能性があり、自己判断で除去しないでください)
- こだわりの強さや言葉の遅れなど、食事以外の場面でも気になることが重なっている
よくある質問(FAQ)
Q. 会話を増やせば偏食は直りますか?
A. 直ると証明された研究ではありません。わかっているのは「食卓の会話が豊かな家庭ほど偏食が少ない」という結びつきで、どちらが先かはこの調査では決められません。ただ、試して害はなく、他の研究も同じ方向を示しています。
Q. 私自身に好き嫌いがあります。子どもの偏食は私のせいですか?
A. 作る人の好き嫌いは子どもの偏食と結びついていましたが、理由は「その食材が食卓に出ないから」だと説明されています。あなたが克服する必要はありません。出すだけで十分です。
Q. 食べむらがひどいのですが、偏食とは違いますか?
A. この研究では、食べむらは偏食と同じまとまりに入りました。別ものとして悩まなくて大丈夫です。1食ではなく数日単位で見てください。
Q. 発達がゆっくりだと偏食になりやすいのでしょうか?
A. この研究では、首すわりや言葉が遅かったことと偏食のあいだに関連は見られませんでした。ただし「こだわりの強さ」とは関連があります。食事以外でも気になることが重なる場合は、健診の機会に相談してください。
Q. 偏食だと便秘になりますか?
A. この研究では、毎日排便があるかどうかと偏食に関連は見られませんでした。ただし質問が「毎日あるか」の2択だけだったため、研究チームは回数まで含めた調査が必要だとしています。
Q. テレビを見せないと食べてくれません。
A. 見ながらでも食べられるならまず栄養は確保できます。そのうえで、食事の最初の5分だけ消すなど、部分的に試してみてください。この研究では、テレビが偏食を招くという向きの関係は確認されていません。
Q. 偏食はいつ頃から始まり、いつ頃落ち着きますか?
A. 一般的には、初めて見る食べ物を警戒する気持ち(食物新奇性恐怖と呼ばれます)が1歳半ごろから強まり、2〜5歳ごろにピークを迎え、就学前後にかけて落ち着く子が多いと言われています。ただし個人差が大きく、「何歳になれば治る」という決まった基準があるわけではありません。今回紹介した研究の対象児も平均4.2歳で、ちょうどこのピークの時期にあたります。
Q. 栄養バランスが心配です。ジュースやおやつで補ってもいいですか?
A. 主食・主菜のどれかを、数日〜1週間単位でならしてある程度食べられていれば、大きな心配はいらないことが多いです。ただし体重の増え方が気になる場合や、特定の食品群だけを極端に避けている場合は、自己判断でサプリメントやおやつに頼る前に、かかりつけの小児科医や自治体の栄養相談窓口に相談してください。
まとめ
熊本の親子429組を調べた研究で、子どもの偏食ともっとも強く結びついていたのは、食卓で楽しく会話をしながら食べているかでした。次に、作る人自身の好き嫌いと食への関心の低さ。そして偏食の子は、食事中の手遊びやテレビ視聴と結びついていました。
一方で、発達のゆっくりさ、食物アレルギー、排便の状況、子どもの性別や体格とは関連が見られていません。
1回きりの調査なので因果関係は証明されていませんが、取り組む場所が「子どもの口」ではなく「食卓の空気」だとわかるだけで、毎日の食事は少し変わります。今日の夕食で、テレビを消して、同じものを一口だけ一緒に食べて、食べ物と関係のない話をしてみてください。食べた量は、数えなくて大丈夫です。
主な出典
– 當房浩一・守田真里子・川上育代・大柿惠子・原田香・秋吉澄子・増淵千保美・坂田敦子(2024)幼児期における偏食の要因および食行動との関連の探索的研究─熊本県の保育施設・区役所における横断調査─.栄養学雑誌 82(3):96-109. 論文ページ
– Wen Y, An M, Wu N, Ren X, Liu X, Huang J, Zhou Q (2025) Association between caregivers’ responsive feeding practices and eating behaviors of children aged 6-35 months. Appetite 213:108141. 論文ページ
– 厚生労働省(2016)平成27年度 乳幼児栄養調査結果の概要
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